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窮迫する介護事業運営

1.訪問介護事業を廃業する

昨年の12月末をもって、訪問介護事業所ほっと・氷川台ヘルパーステーションを閉じました。2004年2月に会社を設立した弊社にとって初めての事業所でした。その後、居宅介護支援事業所、通所介護事業所、小規模な(入居者6名、自費ショート1室)住宅型有料老人ホーム、福祉用具レンタル・住宅改修、都市型ケアハウスを開設し、練馬区氷川台を中心とした東部エリアで地域に根付いた介護事業の展開に向け、努力してきました。
しかし、訪問介護事業はここ3年ほど赤字が続いていました。介護においては、訪問と通所はとても大事な事業であり、何とか維持していきたいと考えてきましたが、将来展望が見ず、また、他の事業も厳しさを増す中で廃業を決意しました。

2.訪問介護における人材不足

介護事業は、全体的に人材不足に陥っていますが、その中でも、訪問介護は特に、人材が集まりにくくなっているように感じています。
弊社にとっても、サービス提供責任者や登録ヘルパーの人材確保も大きな課題でした。
登録ヘルパー募集に当たっては、既存のヘルパーさんにキャンペーン月間を作り、お友だち紹介をお願いしたり、近隣に3か月間にわたって、手書きのチラシを配布しましたが、問い合わせはひとつもありませんでした。有料人材募集誌にも掲載しましたが、問い合わせはありませんでした。弊社の登録ヘルパーは、ほとんどの方が5年以上勤務している60代、70代の方です。若い方はいません。
サービス提供責任者の採用は、さらに難しいものでした。
サービス提供責任者は、登録ヘルパーがお休みの時などは、対応しなければなりません。休日であっても出勤しなくてはならないときもあります。精神的に休まることが少ない職務になっています。
また、介護職にとって、初任者研修資格を取り、介護福祉士の資格を取り、サービス提供責任者になり、その後、居宅介護支援専門員(ケアマネ)となっていくコースが出来ています。ケアマネも、大変な業務ですが、時間を自分でコントロールすることが出来る職種であり、その面からもサービス提供責任者が求める職種になっています。
また、ケアマネには、主任ケアマネという上級資格が生まれました。しかし、サービス提供責任者には、何年経験を積んでも昇格する資格はありません。
また、制度改正ごとに、訪問介護の内容が変化し、利用者との接点がなかなか取れなくなってきています。例えば、現在は、生活援助において、1時間で買い物・調理を行わなければならず、大変忙しい対応になっています。利用者との交流が十分でなくなっています。利用者との接点が少なくなることは、「やりがいの喪失」です。大変でも、利用者のことを最も分かっているのは、サービス提供責任者、登録ヘルパーです。そこに、誇りがあります。
3年ごとの制度改正が、介護職の人材不足、特に、サービス提供責任者、登録ヘルパーの人材不足を生み出しているとしか思えません。

3.事務の効率化 処遇改善加算の在り方を考える

介護職員への給与水準をあげることを目的に介護報酬とは別に税金で、介護職員処遇改善交付金制度が2008年に生まれ、2012年度には介護報酬に組み込まれ、名称は介護職員処遇改善加算となり、昨年10月からは、介護職員等特定処遇改善加算も始まりました。
この制度の導入により、確かに、介護職員の給与水準は上がりました。特に、訪問介護は加算Ⅰを取得すれば、介護職員処遇改善加算で13.7%、同じく介護職員等特定処遇改善加算でも6.3%が加算され、他の介護事業に比べ、大きな割合となっています(例えば、通所介護は加算Ⅰでそれぞれ5.9%、1.2%です)。登録ヘルパーの時給も身体介護であれば、2000円以上が当たり前になっています。
しかし、介護現場では、介護従事者だけではなく、送迎する人、料理を作る人、事務を行う人などが働いています。介護職員等特定処遇改善加算では、介護職員だけでなく、その他の職種の人も良いとなっていますが、その額は特定介護職員の1/4でしかありません。
結局、その他の職員の給与も、上げざる得ず、事業者にとっては、このような加算が増えることによって、ますます経営的に厳しくなってきます。
また、加算を取得するためには、毎年、計画書及び実績報告書を提出しなくてはなりません。この事務量は大変で、多くの時間を割かなくてはなりません。事務が大変ということで加算取っていない事業所もあります。それらは当然、零細な事業所です。
受け手となる都や区は、これらの事務処理をするため職員を多数雇用しています。そのため、介護職員処遇改善加算などによる真水効果はさほど大きくないように思われます。国は、介護事業者への信頼がないのか、介護職員の待遇改善に力を注いでいますが、このような制度がなくなっても、当たり前ですが、人手不足の中で、人件費が下がる状況にはありません。
事務の効率化が言われています。このような加算制度を作りあげるよりは、単純に、単価を上げた方が、効果は大きいはずです。

4.3年ごとの制度改正の改正は事業所運営を困難にしている

介護保険制度が始まる時には、3年ごとの改正は、超高齢者社会を見据えて、徐々に良くなるものと思っていました。しかし、3年ごとの改正によって、介護保険制度の目的は「尊厳の保持」から「制度の維持」に変わってしまいました。そして、情報を持ち、専従者を抱える官僚主体のものになってしまいました。
一方、事業者から見ても、3年ごとの改正は、国が、一般企業との比較ではなく、介護事業別の利益率を基に、高いところの単価を押さえていくことを毎回行い、長期的な事業展開を困難なものにしています。特に、小規模事業者にとっては、今後事業を維持していくことは、ますます難しくなってくると懸念しています。
練馬区においての訪問事業所と通所事業所の数を調べましたが、、年々減ってきています(表参照)。特に、小規模事業者といわれる有限会社の数が大きく減少してきています。
練馬区の介護事業者の集まりである練馬区介護サービス事業者連絡協議会で活動しているメンバーは地元事業者が中心です。毎年、11月11日(介護の日)に開催される介護週間などのボランテイア活動に参加しているのも、地元事業者が中心です。このままでは、大規模商店などの出店により、地元商店が消えていったように、地元事業者は疲弊し、活力を失ってしまいます。
それは、結果的に、地域社会に活力がなくなってしまうことであり、国が描く地域包括ケアシステムなどは夢物語になってしまいます。
介護保険制度が誕生した時、地方自治法も、大きく改正されました。機関委任事務は廃止され、国と地方の関係は「上下・主従」の関係から「対等・協力」の関係へと変わりました。介護保険制度は、これからの地方分権を進めていく象徴になるといわれたものでした。その意味からも、自治体が、3年ごとの改正において、もっと積極的な役割を果たして欲しいと思っています。

5.最後に 地域包括ケアシステムについて

国は、地域包括ケアシステムの絵を描いています。最初は、介護を中心としたものでしたが、今では、障害者や子供などに係る課題や防災なども包含してきています。介護の運用というよりは地域コミュニティをどう形成するかという課題になりつつあります。他の自治体でも一緒ですが、練馬区では、地域包括ケアシステムの担当は、福祉部になっています。この体制では、地域包括ケアシステム=地域コミュニティを創りあげていくことは出来ません。やはり、企画部の担当として、全庁的に取り組む体制にするべきです。
練馬区は、地域の出先機関であった出張所を廃止してしまいました。練馬区には、以前、出張所を単位とする地域コミュニティ構想がありましたが、現在は、地域コミュニティづくりをどのように創りあげていくかの構想は持っていません。地域包括支援センターの整備も大事ですが、まずは、地域コミュニティづくりを検討すべきです。最初に課題となるのは、そのエリアです。地域包括ケアシステムのエリアは、中学校区、自転車で5分圏内とか言われていますが、それを参考に考えていけば良いと思います。その際、機械的に考えていくのではなく、地域には当たり前ですが、歴史があります。そのことを勘案して検討していくことです。また、隣接エリアでも利用可能なように重層的な考え方をもつことも必要です。
地域コミュニティづくりは難しい課題ですが、これからの自治体としては避けて通れない大きなテーマです。
私たち介護事業者も、地域包括ケアシステムを創りあげていく一つの力になりたいと思い、旧第2出張所範囲で介護事業を行うメンバーに声をかけ、第2地区介護事業所地域連絡会を有志で設立しました。今年度で4年目を迎えます。現在は、医療関係や行政などとタイアップして、年1回のイベントの開催が中心ですが、今後は、さらに、町会・自治会や老人クラブなどその地域で活動する方々と連携を深め、行政と連携しながら、旧第2地区内での地域包括ケアシステムづくり=地域コミュニティづくりに寄与していきたいと考えています。

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